BDルーンペンダント・病魔除け｜GIBU ALUGOD

病魔避けのペンダント

 
とある町の乗合馬車の待合所。
町の中央広場から少し離れたその場所には、先端に赤い布が巻き付けてある長さ2m程の棒が目印として地面に打ち付けてある。
それと馬車を待ってる間のイス替わりにか、古びた樽が4つ置いてあった。
 
天気はよく、中央広場では朝市の賑やかな声が聞こえてくる。
まだ朝は少し冷える季節ではあるが、あとふた月もすればそれも感じなくなるだろう。
 
樽に浅く腰かけ、目的の馬車が来るのを待つ。
自分以外に馬車を待つ客はいなかったが、しばらくすると誰か一人こちらに向かって歩いて来るのが見えた。
 
背は高く痩せて見えるが、決して弱々しくは無い感じ。
何より印象的だったのは眩しいばかりに輝く金色の髪とその下に見える長い耳だった。
私はここでこの辺りでは珍しい、エルフの青年に出会う。
 
軽く挨拶をし、いくつか言葉を交わす。
普通、エルフはあまり故郷を離れて外の世界に出ることは無いのだが、彼はその例に当てはまらず、旅をすることが好きなのだそうだ。
「変わり者なんだと思う。」
彼は笑いながらそう言った。
 
なるほど、言われてみればその使い込まれたリュックや手袋、普通のものよりもかなり丈夫に作られているであろう革のブーツが目に入った。
それともう一つ、彼の首から下がっている不思議な模様のペンダントにも気が付く。
雪の結晶のように綺麗なその模様に惹かれ、そのペンダントはどう言ったものなのかを尋ねた。
「ああ、これかい？これはうちの村に古くから伝わる病魔避けのお守りさ。村の外に出る時、年寄り連中は必ずこれを持たせてくれるんだよ。」
と、少し照れくさそうに彼は話してくれた。
 
よく見たところ、ルーン文字を使った護符のように思えたのでその事を聞くと、
「よく知ってるね。そうだよ。これはバインディングルーンを使った魔法の護符さ。もっとよく見てみるかい？」
と言って彼はペンダントを外し、私の手に渡す。
こんな貴重なものを、そんな簡単に他人の手に渡しても良いものなのだろうか？
「ええ？そんな大層なもんじゃないよ。今どきこんなもの信じてるのは子供か年寄り連中だけさ。」
青年は笑いながらそう言っていたが、とてもそうは思えない。
手にすればはっきりと魔法の力を感じるし、恐らく素材もただの銀でないことも分かった。
 
この護符に魅力を感じた僕は、この模様を描き写してもいいか遠慮がちに聞くと、
「あんたも変わってるね？別に構わないよ。」
と快く承諾してくれた。
 
何のルーン文字がどのように配置されているか、その意味なども教えて貰いながら模様をスケッチブックに描き写す。
病魔や悪意を寄せ付けない護符なのだそうだ。
 
そうこうしているうちに彼の乗る馬車がやってきた。
何かお礼をしたいと言うと、
「別にいらないよ。またどこかで会ったら何か面白い旅先の話を聞かせて。」
と言って馬車に乗っていった。
 
遠ざかる馬車を見送り、近くのベンチに腰をかける。
今日あったことを忘れないようにメモを取りながら、次の馬車を待つことにした。